1 子会社に不祥事が生じた場合に親会社の取締役は責任を負うのか?
昨今、その規模を問わず、子会社を含む企業グループを形成し、事業を子会社ごとに分配することによって、柔軟かつ多角的な経営を目指す企業も多いかと思います。
特に、ビジネスの必要性から子会社の新設や他企業からの買収を急ぎ、子会社の管理が十分ではないままになっている、という親会社もあるのではないでしょうか。そのような子会社において不祥事が生じた場合、親会社の取締役は、どのような責任を負うのでしょうか。
2 親会社の取締役が子会社管理に関して負う責任とは?
親会社の取締役は、国内外を問わず子会社の管理について責任を負っています。
すなわち、親会社は子会社の株主であり、親会社の取締役には、会社の重要な資産としての子会社を管理し、親会社に損害を与えないようにする注意義務(善管注意義務〔会社法330条、民法644条〕ないし忠実義務〔会社法355条〕)があります。
子会社において法令違反等の不祥事が発生した場合、具体的には、以下の2つの義務違反が問題となります。
① 子会社での違法・不当な行為を発見し、又はこれを未然に防止する注意義務(監視・監督義務)の違反
② 内部統制体制の構築義務の違反(会社法362条4項6号、同条5項)
3 子会社の監視・監督義務とは?
親会社取締役会は、子会社について、企業集団における重要性、株式の所有の態様、子会社の業務に対する影響力や指図の有無及び程度、子会社で行われる行為の性質等に応じて、その業務を監督しなければならないという一般的規範が認められるべきであると解されています(江頭編『株式会社法体系』(有斐閣)101頁)。
したがって、親会社の取締役は、善管注意義務の一内容として、子会社の違法・不当な行為を発見し、又はこれを未然に防止する注意義務(監視・監督義務)を負うと考えられます。具体的には、子会社の役職員の不正行為等の不祥事を知り又は知り得べきであった場合に、これを阻止するために必要な措置を採る義務です(東京地方裁判所商事法研究会『類型別会社訴訟Ⅰ(第3版)』(判例タイムズ社)257頁)。
以上のような監視・監督義務は、下記4で述べる内部統制体制を適切に構築・維持していれば、信頼の原則が働き、特段の事情がない限り義務違反を問われないと解されます。
別法人である子会社で生じた不祥事について認識可能性がある場合は限られるようにも思われますが、以下のような場合には、子会社において不祥事が生じ、それにより親会社に損害が生じたときは、親会社の取締役は、監視・監督義務を怠ったとして、善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。
① 親会社の取締役が子会社に指図するなど、実質的に子会社の意思決定を支配したと評価しうる場合であって、かつ、親会社の取締役の右指図が親会社に対する善管注意義務や法令に違反するような場合(野村証券事件・東京地判平成13年1月25日判時1760号144頁)
② 親会社の取締役において不正を特に疑うべき事情があった場合や、内部統制体制が適切に機能しておらず、自社及び子会社の役職員からの情報を信頼することが許容される前提がないと評価されるような場合(例えば、本来報告されるべき情報が報告されていないような場合)
また、実際に子会社に不祥事が生じた場合であって、監視・監督義務の違反が認められない場合であったとしても、不祥事への対応がまずければ、取締役の善管注意義務違反が認められることがあります。その判断枠組みとしては、有事発生の認識後、速やかに損害及び信用失墜を最小限にとどめるための適切な対応を講じたかどうかがポイントとなります(ダスキン事件・大阪高判平成18年6月9日判タ1172号271頁参照)。
4 内部統制体制の構築義務とは?
株式会社の取締役会は、いわゆる内部統制体制(会社法362条4項)として、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」(同項6号、同法施行規則100条1項5号)を構築する必要があります。これには、以下に関する体制が含まれます(同号イ~ニ)。
① 子会社の取締役等の職務執行に係る事項についての親会社への報告(同号イ)
② 子会社の損失の危険の管理(同号ロ)
③ 子会社の取締役等の職務の執行の効率性確保(同号ハ)
④ 子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することの確保(同号ニ)
一般的には、上記①~③のために構築すべき体制としては、(i)子会社における業務の適正確保のための議決権行使方針の決定、(ii)親会社におけるグループ統括機構の設置、(iii)子会社の業務執行に関する親会社の承認体制の構築、(iv)親会社による内部監査の実施体制の構築、(v)取締役、監査役等の派遣等が想定されます。また、上記④の体制としては、(i)法令遵守マニュアルの作成や使用人相互間の適切な監督体制の構築、(ii)コンプライアンスマニュアル、倫理規定の作成・配布、(iii)コンプライアンスに関する教育・研修体制の構築、(iv)内部通報制度の設定等が挙げられます(落合誠一編『会社法コンメンタール8』(商事法務)230頁等参照)。
このような内部統制体制は、会社が営む事業の規模、特性等に応じて整備する必要があります(大和銀行事件・大阪地判平成12年9月20日判タ1047号86頁参照)。どの程度の体制を整備すれば取締役の善管注意義務違反が問われないかについては、例えば、従業員の不正行為について、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制が構築・維持されているかどうかによって判断するとした判例があります(日本システム技術事件・最判平成21年7月9日判時2055号147頁)。
内部統制体制の構築・維持が適切になされていない場合、子会社において不祥事が生じ、それにより親会社に損害(子会社株式の価値の毀損という損害を含みます)が生じたときは、親会社の取締役は、当該構築・維持を怠ったとして、善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。
親会社の取締役として、子会社管理の責任を問われないようにするための体制作り、また、実際に不祥事が生じた場合の対応等、お気軽にご相談ください。
弁護士 浦上俊一
(お問合せはこちら)