1.販売代理店契約の必要性
一般に、メーカー企業は、自社製品について、自ら販売することに加え、販売店(卸)・小売店等を利用して販路拡大するケースが多いと思います。
特に一般消費者向け商品(B to C商品)についてはマーケットへの商品普及・販促・販売拡大のために自社の営業力のみでは必ずしも賄いきれないことがあるでしょうし、販売店側にあっても、取扱商品を拡大することで、エンド・ユーザー等の販売先に対する販促効果を高めることが可能です。
具体的には、メーカーは、販売代理店との間で、販売代理店契約を締結し、メーカー→販売代理店→小売店・消費者といった商品販売の商流を形成することになります。
2.販売代理店契約とは?
販売代理店契約と一口にいっても、法的には、以下の二つに大別されます。
⑴ 販売店契約(Distributorship Agreement)
販売店契約では、販売店はメーカーから商品を購入し、自己の責任で当該商品を販売します。したがって、販売店契約は、売買基本契約と類似の性質を有するのが一般的です。
⑵ 代理店契約(Agency Agreement)
代理店契約では、代理店が、メーカーの代理としてメーカーの商品を販売します。代理店はメーカーから商品を購入するわけではなく、販売手数料等を得て販売促進、宣伝広告等を行うことになり、売買契約はメーカーと販売先との間で締結することになります(代理店は売買契約の当事者にはなりません)。
3.販売代理店契約の解消を検討したい!
販売店契約(Distributorship Agreement)を締結したメーカーにとっては、販売店によるエンド・ユーザーへの販売量が自社製品の売上に大きく影響を与えることになります。
そのため、当該販売代理店の売上が思うように伸びなければ、販売代理店契約を解消して、他の販売店との間で契約を締結することを検討する場面が生じえます。
特に、販売店契約において、販売店に独占的販売権を付与しているケースや、販売店に最低購入数量が課されていないケースでは、その必要性が顕著になります。
4.更新拒絶の無効を争われた!
本稿では、メーカーと販売店との間で以下の規定を含む販売店契約(Distributorship Agreement)(以下「本契約」)が締結されていることを念頭に、上記3のような理由からメーカーがその解消を企図しているものとします。
⑴ 独占的販売権の付与
販売店は、メーカーの製品(以下「本製品」)を消費者及び消費者に販売することを目的とする他の販売店・小売店に再販売するための独占的権利を有し、本製品に関するメーカーの唯一の販売代理店として、メーカーから本製品を購入する。
⑵ 本契約の有効期間と自動更新
本契約の有効期間は、発効日より1年間とし、期間満了の3ヶ月前までに、メーカー又は販売店のいずれかより書面により本契約を終了させる旨の意思表示がなされない限りさらに1年間存続し、以後も同様とする。
販売店契約を解消する方法としては、合意による中途解約、契約に基づく一方的中途解約等が考えられますが、メーカーは、上記⑵の更新拒絶によって契約を終了させることとしました。そこで、メーカーが、販売店に対し、期間満了の3か月以上前に、更新拒絶の通知を行ったところ、販売店が、更新拒絶は無効であるとして争う姿勢をみせたとします。
この場合、更新拒絶の有効性は、どのような基準により判断されるでしょうか。
5.更新拒絶の有効性判断
⑴ 販売店は法律によって保護される?
日本において、販売店(Distributor)を保護する特別法はありません。
本契約のような、期間の定めのある販売店契約は、いわゆる継続的契約の一種といえます。そのため、更新拒絶の可否については、民法上の継続的契約の法理に従って判断されることとなります。
⑵ 継続的契約とは?
継続的契約について、法的に明確な定義はありませんが、「契約の性質上、当事者の一方又は双方の給付がある期間に渡って継続して行われるべき契約」等とされています(高橋善樹『継続的契約の終了に関する判例実務の検討 第1回』NBL909号38頁)。
⑶ 継続的契約の更新拒絶が認められるためには?
これまでの裁判例では、①被拒絶者(本件では販売店)を保護する必要性を考慮するとともに、②当該必要性に応じて、更新拒絶の理由がどの程度あるか等を総合的に考慮することにより、期間の定めのある継続的契約についての更新拒絶の可否を判断しています。また、当然のことながら、③更新拒絶に関して契約上事前の書面による通知等の手続が必要な場合には、その手続に従う必要があります。
以下、①から③までについて、より具体的に検討してみたいと思います。
ア ①被拒絶者を保護する必要性
ア) 裁判例における、被拒絶者(本件では販売店)を保護する必要性についての考慮要素としては、以下が挙げられています(東京地判平成11年2月5日判時1690号87頁、中田裕康『継続的売買の解消』(有斐閣)491頁)。
(a) 契約更新のための手続
(b) 契約の更新回数や存続期間
(c) 被拒絶者の契約又は相手方に対する依存度
(d) 契約について被拒絶者が行った投資の程度 等
イ) 本契約についていえば、まず、(a)本契約は自動更新され、更新のための特別な手続は不要であるため、原則更新が予定されていたと評価される余地があります。 (b)例えば10年程度契約が存続していたとすれば、販売店としては、相当期間にわたって契約関係が存続することが予定されており、実際にもかかる予定に従って契約関係が維持されていたものと主張することが考えられ、これらは被拒絶者を保護する必要性を基礎づける事情となります。
一方、本契約は、(a)有効期間中でも3ヶ月前の意思表示により、本契約を終了させることができる点で、相当期間にわたって契約関係が存続することが予定されてはいなかったといえる事情もあるといえます。
次に、(c)については、例えば販売店の年間売上高合計に占める本製品の年間売上高の割合や、本契約終了後直ちに販売店が類似商品等を販売することの可否、その他被拒絶者の経済的不利益の内容等が考慮要素になると解されます。
また、(d)については、本契約に基づく取引を開始するにあたって特別の投資を行ったか否か(初期投資)、販売費等の費用をこれまでどの程度負担してきたか(継続投資)、それが売上において回収又はカバーされているか(回収の程度)等、本契約を継続して回収すべき投資額ないし負担費用の多寡が考慮要素になると解されます。
ウ) 上記以外の事情としては、例えば、本契約の終了により、これまでに販売店が開拓した顧客をメーカーが全てその手中に収めるといった不合理な事態(例えば、販売店がその顧客情報をメーカーに完全に開示していて、メーカーがこれを容易に利用可能であるといった場合等)がないかも考慮されます。
また、本契約の終了によって販売店が処分困難な在庫を抱えるリスクがあるかも考慮事由となるでしょう。
イ ②更新拒絶の理由
ア) 継続的契約の更新拒絶を行う際に、どのような理由が必要であるかについて、裁判例の判断基準は、下記(ⅰ)及び(ⅱ)に大別されます。
(ⅰ) 特に更新拒絶の理由を考慮することなく、更新拒絶を認めるもの(東京高判平成4年10月20日判タ811号149頁、名古屋地判平成元年10月31日判時1377号90頁(フランチャイズの事例))(すなわち、拒絶者は、契約上の手続に従えば更新拒絶できる。)
(ⅱ) ①更新拒絶にやむを得ない理由(札幌高判昭和62年9月30日判時1258号76頁、大阪高判平成8年10月25日判時1595号70頁)、又は②一応の合理的な理由(前掲東京地判平成11年2月5日)が必要であるとするもの(すなわち、拒絶者は、契約上の手続に従った場合であっても更新拒絶を制約されることがある。)
イ) 上記(ⅰ)について
当該判断基準によれば、被拒絶者を更新拒絶から保護する必要性(上記ア)のみにより、更新拒絶の有効性を判断することとなります。
ウ) 上記(ⅱ)①及び②について
①の基準は、拒絶者の契約上の更新拒絶権を幅広く制約するものであるため、仮に被拒絶者を保護する必要性が高くない場合には、この判断基準は採用しえないものと解されています(前掲注札幌高判昭和62年9月30日は、やむを得ない事情を要求する前提として、被拒絶者の保護の必要性に関する事情を詳細に認定しています。当該事件においては、被拒絶者の保護の必要性がきわめて高い事例であったと解されます。)。上記アに関し、更新拒絶から販売店を保護する必要性が高いといえる場合には、当該基準が採用されることになります。
メーカーによる更新拒絶の理由としては、以下のような事情の有無が考慮されると考えられます。
(a) 現状の販売店では売上向上が認められないといえるか
(b) 他方、他の代理店等を利用すれば売上アップが期待できるか否か
(c) 販売店が販促を積極的に行っていないといった事情があるか
(d) 契約期間からみて、試験的な販売期間と捉えることができるか否か 等
ウ ③更新拒絶の手続
本契約上、更新拒絶のためには期間満了の3ヶ月前までに書面により相手方に通知すべきものとされているところ、メーカーは、形式的には期間満了日の3ヶ月前までに書面による更新拒絶通知を行っています。更新拒絶通知の内容から、書面上明確に契約更新拒絶の意思表示がなされており、かつ、何らの留保が付されていなければ、確定的になされたものとして有効であると解されます。
一方、例えば、更新拒絶通知を行ったにもかかわらず、実際には更新拒絶しないで契約継続する可能性があることを示唆していたり、当該通知の内容と実際の意思が異なると認められるような事情があれば、心裡留保(民法第93条但書)として無効、という主張が販売店からなされることも一応は考えられます。
6.補論―メーカーの損害賠償責任は認められるか?
⑴ 販売店のメーカーに対する損害賠償請求の可否
販売店がメーカーに対して損害賠償請求をするには、メーカーが本製品を販売しないことが違法である(債務不履行ないし不法行為である)こと、すなわち更新拒絶が無効であるにもかかわらず、本契約が終了したとしてメーカーが販売店に対して本製品を販売しないことが必要です。
したがって、損害賠償請求の可否は、基本的には更新拒絶の有効性の判断と同様に判断されることになります。
⑵ 損害請求が認められる場合の損害額
仮に、更新拒絶が無効であると解される場合、一般に損害として考えられるのは、①取引継続中の既発注分・発注見込み分を販売できないことにより生じた損害、②取引終了後の、将来の得べかりし利益等です(前掲中田『継続的売買の解消』88頁)。
①については、販売店に処分困難な在庫が残ったことにより生じた損害、具体的にはその仕入に要した費用や保管費用等が含まれると考えられます。
②については、終了までの契約期間、代替取引開始までに要する期間等を考慮しつつ、契約終了後半年から1年間の得べかりし利益を損害として認めた裁判例が数件見受けられます(東京地判昭和59年9月30日(判時1045号105頁)、東京地判昭和36年12月13日判時286号25頁、名古屋高判昭和46年3月29日判時634号50頁、東京地判昭和56年2月26日判時1020号64頁、東京地判平成3年7月19日判時1417号80頁)。
以上のとおり、販売店契約の更新拒絶の可否については、事案ごとの事情によることが多く、慎重な検討が必要です。また、販売店契約の規定ぶりによっては、更新拒絶を認められやすくしたり、逆に認められにくくしたりすることが可能です。
販売店契約の締結を検討したい、あるいは、すでに締結済みの販売店契約を解消したい又は更新拒絶の無効を主張したい等、販売店契約に関する法的サポートを必要とされる企業の皆様におかれましては、お気軽にご相談ください。
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