改正民法の施行が2020年4月1日に迫ってきました。
改正民法の施行により、企業は具体的にどのような対応が必要になるのでしょうか?
このブログでは、多くの企業が締結しているであろう売買基本契約書について、民法改正による影響ポイントや一般的な改定案をまとめてみました。
1 民法改正の概要は?
契約に関する規定(民法第1編及び第3編)の全般的な見直しが行われました。
2 民法改正の経緯は?
2009年 法制審議会による審議の開始
2013年 法制審議会による中間試案の公表
2015年2月 法制審議会による要綱案の決定
2015年3月 民法の一部を改正する法律案の閣議決定、衆議院提出
2017年5月 民法の一部を改正する法律の成立
2017年6月 民法の一部を改正する法律の公布
2017年12月 民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令の公布
3 施行時期と経過措置は?
施行は、2020年4月1日です。
施行前の契約については、原則、改正前の民法が適用されます。
4 売買契約条項への改正対応は?
具体な取引例として、商品の継続的売買に係る基本契約(甲が売主、乙が買主)を想定し、以下では各条項の一般的な改定例を示します。
(1) 契約の目的
ア 現行の条項例
第●条(契約の目的)
本契約に基づき、甲(売主)は、商品を乙(買主)に継続的に供給し、乙は、これを継続的に購入するものとする。
イ 関連する民法改正の内容
新民法400条は、特定物の引渡しまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存する義務を規定するところ、同条では、善良な管理者の注意が「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」定まるとする改正がなされました。
それ以外にも、債務不履行(新民法412条の2、415条1項、)、解除(新民法541条)等の条文で「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」との文言が使われています。
そのため、契約における合意の趣旨や目的を明確にすることが重要になります。そこで、契約の目的条項がなければ、それを設ける、又は目的条項があればより具体的に規定するといった対応が必要になります。
ウ 民法改正に対応した修正条項例
第●条(契約の目的)
本契約に基づき、甲(売主)は、甲の製造する本件商品を乙(買主)に継続的に供給し、乙は、本件商品を組み込んだ製品をその顧客に販売することを目的として本件商品これを継続的に購入するものとする。
(2) 瑕疵担保責任
ア 現行の条項例
第●条(瑕疵担保責任)
1 乙は、商品の引渡しを受けた後1年以内に商品に隠れた瑕疵があることを発見したときは、甲に対し、甲の費用で代品の納入、瑕疵の補修又は代金の減額を請求することができる。
2 前項に定める場合、乙は、甲に対し、商品に隠れた瑕疵があったことを直ちに通知しなければならない。
3 商品の瑕疵が甲の責めに帰すべき事由による場合は、第1項に定める期間の経過後であっても、乙は、甲に対し、第1項に定める請求をすることができる。
4 本条の規定は、乙による損害賠償の請求を妨げない。
イ 関連する民法改正の内容
「瑕疵」概念を廃止し、「契約不適合」責任としての担保責任が採用されました(新民法562条以下)。
特定物・不特定物の区別なく、引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるときに、①追完請求権、②代金減額請求権、③解除、④債務不履行による損害賠償が認められます。
ウ 民法改正に対応した修正条項例
第●条(瑕疵担保契約不適合責任)
1 乙は、商品の引渡しを受けた後1年以内に商品に直ちに発見することができない、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しない状態(以下「契約不適合」)隠れた瑕疵があることを発見したときは、甲に対し、甲の費用で代品の納入、瑕疵の補修又は代金の減額を請求することができる。
2 前項に定める場合、乙は、甲に対し、商品に直ちに発見することができない契約不適合隠れた瑕疵があったことを直ちに通知しなければならない。
3 商品の瑕疵契約不適合が甲の責めに帰すべき事由による場合は、第1項に定める期間の経過後であっても、乙は、甲に対し、第1項に定める請求をすることができる。
4 本条の規定は、乙による損害賠償の請求を妨げない。
(3) 危険負担
ア 現行の条項例
第●条(危険負担)
本契約の締結後、商品の引渡し前に生じた商品の滅失、毀損、盗難、紛失等については、乙の責に帰すべき事由によるものを除き、甲が負担する。
イ 関連する民法改正の内容
目的物の引渡し時点に危険が移転することが明文化されました(新民法567条)。
なお、履行不能については、代金の支払いを拒むことができるとされています(新民法536条1項)。また、買主の責めに帰すべき事由による履行不能でない限り、買主は、契約を解除して代金債務を免れることもできます(新民法542条1項1号)。
ウ 民法改正に対応した修正条項例
目的物の引渡しが当事者双方に帰責事由なくして履行不能になったときに、債権者(買主)の反対給付債務(売買代金支払債務)は当然に消滅するのではなく、解除するまで残ります。すなわち、売主から売買代金の支払いを求められた場合、買主は、履行不能を根拠に解除するか(新民法542条1項1号)、履行を拒絶することになります(新民法536条1項)。しかし、危険の発生が履行不能に当然該当するとは言えないため、買主の立場に立てば、履行拒絶だけでなく、危険の発生により契約解除できることを明確化する修正をすることが考えられます。
第●条(危険負担)
本契約の締結後、商品の引渡し前に生じた商品の滅失、毀損、盗難、紛失等については、乙の責に帰すべき事由によるものを除き、甲(売主)が負担するものとし、この場合、乙(買主)は、本契約を解除することができる。
(4) 解除
ア 現行の条項例
第●条(契約の解除)
甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要せず、本契約および個別契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 自己が振り出しもしくは引き受けた手形もしくは小切手が不渡りになったとき。
(2) 監督官庁より営業の取消、停止等の処分を受けたとき。
(3) 第三者より仮差押、仮処分、差押、強制執行もしくは競売の申立または公租公課滞納処分を受けたとき。
(4) 破産、特別清算、民事再生もしくは会社更生手続の申立を受けまたは自らこれらを申し立てたとき。
(5) 主要な株主の変更、事業譲渡・合併・会社分割等の組織再編、その他会社の支配に重要な影響を及ぼす事実が生じたとき。
(6) 故意または過失により本契約または個別契約に違反し、相手方より相当な期間を定めて書面でその是正を催告されたにもかかわらず、当該期間内にこれを是正しないとき。
(7) その他前各号のいずれかに準ずる事由があったとき。
イ 関連する民法改正の内容
契約解除の要件として債務者の帰責事由が不要になりました(新民法541条、542条)。
また、無催告解除の事由が広がりました(新民法542条)。
ウ 民法改正に対応した修正条項例
現行の条項に債務者の帰責事由が要件となっている場合、債務者の帰責事由を不要とした改正民法の法定解除より、債権者にとって不利な条項となってしまいます。そのため、債務者の帰責事由を要件から削除するのが望ましいと言えます。
また、新民法542条で認められる無催告解除の事由について、契約上もそれを明記することが考えられます。
第●条(契約の解除)
甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要せず、本契約および個別契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 自己が振り出しもしくは引き受けた手形もしくは小切手が不渡りになったとき、または金融機関から取引停止の処分を受けたとき。
(2) 監督官庁より営業の取消、停止等の処分を受けたとき。
(3) 第三者より仮差押、仮処分、差押、強制執行もしくは競売の申立または公租公課滞納処分を受けたとき。
(4) 破産、特別清算、民事再生もしくは会社更生手続の申立を受けまたは自らこれらを申し立てたとき。
(5) 主要な株主の変更、事業譲渡・合併・会社分割等の組織再編、その他会社の支配に重要な影響を及ぼす事実が生じたとき。
(6) 故意又は過失により本契約または個別契約に違反し、相手方より相当な期間を定めて書面でその是正を催告されたにもかかわらず、当該期間内にこれを是正しないとき。
(7) 債務の全部または一部の履行が不能であるとき。
(8) 相手方がその債務の全部または一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(79) その他前各号のいずれかに準ずる事由があったとき。
上記は一般的な対応例を示したものですが、売主・買主のいずれの立場かによっても方針が異なるでしょうし、具体的なビジネスや取引・契約の特徴に沿った改定が必要になるケースもあると思いますが、ご参考になれば幸いです。