1.はじめに
新型コロナウイルス(COVID-19)について、2020年3月25日に行われた小池東京都知事の会見では「このまま何もしなければロックダウンを招いてしまう」という見解が示されました。
一方で、ロックダウンをどのような根拠で行うのかについて記者に問われるも、小池都知事からは明確な回答がありませんでした。また、ロックダウンの実施の基準も明言を避けています。
「自粛」の「要請」などといった矛盾含みのお願いではロックダウンは実現できないように思います。では、ロックダウンを強制する法的根拠はあるのでしょうか。
小池都知事が実際に東京都をロックダウンするために、どのような法的規制手段をもつのか、概要をまとめてみました。
2.結論
小池都知事がロックダウンのために法的根拠をもって行えるのは以下であり、基本的には「要請」のみです。
しかも、内閣総理大臣による新型インフルエンザ等緊急事態宣言が行われたことが前提になります。
① 東京都民に対して「みだりに居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと」等の協力を「要請」すること
② 学校、社会福祉施設、興行場(映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸等の施設)等の施設の使用の制限・停止又は催物の開催の制限・停止を「要請」すること
③ 上記②については、「要請」に従わなかった場合は「当該要請に係る措置を講ずべきことを指示」すること
④ 上記②及び③の公表
オーバーシュートが実際に発生し、又はそのおそれが逼迫したときにロックダウンが必要となることは、アメリカ、フランス、イタリア等諸国の対応をみていても明らかでしょう。
しかし、上記のとおり、小池都知事が法的に強制力をもってロックダウンを実現することはできません。
小池都知事が会見で行った土日外出自粛・平日在宅勤務等の事実上の(法的根拠に基づかない)「要請」が、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく法律上の「要請」に代わることで、どこまでロックダウンが実現できるのか。ロックダウンの実効性確保の方法についてはかなり悩ましい状況なのではないでしょうか。
※ なお、上記は、新型インフルエンザ等対策特別措置法を根拠法令とするものです。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律についても建物封鎖、交通遮断の適用が議論される余地があろうかと思いますが、同法は、汚染疑いのある特定の建物の立入制限・封鎖であったり(同法32条)、消毒できない汚染疑いのある特定の場所の交通制限・遮断を短期間(72時間以内)行うことを想定しており(同法33条)、東京都全体や23区といった広域での都市封鎖(ロックダウン)は射程外との理解です。
3.根拠となる法令の解説:新型インフルエンザ等対策特別措置法
(1)法の目的
新型インフルエンザ等対策特別措置法は、新型インフルエンザ及び全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化を図り、国民の命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする法律です(同法1条)。
(2)新型コロナウイルスの適用
新型コロナウイルスは、新型インフルエンザ等対策特別措置法上、新型インフルエンザ等(同法2条1号)とみなして適用されます(同法の附則1条の2)(3月10日閣議決定・国会提出、同13日成立・公布、同14日施行の改正法によって定められました。)。
(3)新型インフルエンザ等緊急事態宣言
新型インフルエンザ等対策特別措置法によれば、政府対策本部長は、新型インフルエンザ等緊急事態が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態宣言を行うことができるとされています(同法32条1項)。
政府対策本部長は、内閣総理大臣(内閣総理大臣に事故があるときは、そのあらかじめ指名する国務大臣)をもって充てるとされていますので(同法16条1項)、小池都知事が新型インフルエンザ等緊急事態宣言を行うことはできません。
(4)東京都知事によるまん延防止措置
この新型インフルエンザ等緊急事態宣言が行われた場合、東京都知事は、まん延防止措置として、東京都住民に対し、一定の期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができます(新型インフルエンザ等対策特別措置法法45条1項)。
また、学校、社会福祉施設、興行場(映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸等の施設)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができます(同条2項)。この施設管理者等が正当な理由がないのに要請に応じない場合、都知事は、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができます。東京都知事がこれらの要請又は指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければなりません(同条3項)。
以上