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コロナ禍と従業員の休業について

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行とその拡大防止のため、本日(2020年4月5日)時点において、一時休業を発表する大手飲食チェーン等が増えています。

店舗閉鎖に伴って多数の従業員についても休業を余儀なくされている状況かと思います。以下では、企業が自粛等により従業員を休業させる場合の従業員の休業手当についていかに対応すべきなのか、概要をまとめました。

 

1. 賃金支払の原則論について

 従業員が休業するということは、従業員による労務提供が行われないことになります。

 労務の提供がない場合、使用者に賃金の支払義務は発生しないのが原則です(民法624条1項)。

 ただし、会社都合によって休業や自宅待機命令がされたような場合については、労働者は働けるにもかかわらず働く機会を奪われるわけですから、依然労働者は賃金を受ける権利を有します。

 

2. 休業手当の支払義務について

 上記会社都合の休業等の場合の賃金、すなわち休業手当についてですが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」については平均賃金の60%以上の支払義務を使用者が負うとされています(労基法26条)。

 各社の就業規則等に従って、また特に定めがなければ労使で十分協議し、60~100%の間で会社が決定することになります。

 一方で、この「使用者の責に帰すべき事由」がない休業であれば、支払義務がないことになります。

 

3. 「使用者の責に帰すべき事由」の解釈について 

 「使用者の責に帰すべき事由」は、不可抗力事由以外の使用者側の事情が広くこれに該当すると考えられていて、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす必要があります。

 例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」4の問1等参照)。

 

 この内容に関し、2020年4月3日東京新聞朝刊記事にて、極めて興味深い内容の見解が紹介されています。

 同記事によると、厚生労働省の非公式見解ではあるようですが、緊急事態宣言が発令された場合、客の激減や従業員が通勤できなくなるなどで休業を迫られた小売店や飲食店も、企業の自己都合とは言い切れず企業に「休業手当の支給義務を課すことは難しい」との見解が示されています。

 下記4で記載するとおり、現状、企業が休業手当を支払った場合は最大90%の雇用調整助成金の支払を受けられます。この助成金を期待して、企業が従業員の生活を守るため、休業手当を積極的に支払うことも考えられますが、上記厚生労働省の見解は、この逆の方向、すなわち企業が休業手当を支払わないという判断を助長する内容と考えられます。

 

4.雇用調整助成金について

 新型コロナウイルスの影響を受ける事業主を支援するためとして、現在、厚生労働省は、添付図のとおり雇用調整助成金の特例措置を用意しています(図の出典及び制度の詳細は、厚労省HP参照)。

 飲食店等、自粛要請のもと売上がほとんど立たなくなる状況下で、毎日の売上額が仕入額と人件費を優に下回るような状況が続くようであれば、この雇用調整助成金をフル活用することが考えられます。

 すなわち、店舗を一時休業して仕入コストをゼロにし、従業員には休業手当を支払って、上記雇用調整助成金によってこれを補填することにより、損失を最小限に抑えつつ、従業員の生活を確保するという方法が実現可能な場合があるのではないでしょうか。

 

以上

 

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